GLAM Editorial

2024.11.26(Tue)

チャモロの幻の航海術 失われた英知と現代に残る痕跡

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西太平洋に浮かぶグアム島。かつてこの地に暮らしていたチャモロの人々は、驚くべき航海術を持っていたとされています。文字を持たなかった彼らは、その知識を独自の方法で後世に伝えようと試みました。しかし、スペインによる長期の植民地支配により、その多くは失われてしまいました。

 

今回は、断片的な記録と現代に残る痕跡から、チャモロの人々が持っていた驚くべき航海術の世界に迫ります。

伝説の「空飛ぶ高速帆船」

チャモロの人々は「フライング・プロア(Flying Proa)」と呼ばれる高速帆船を操っていたことで知られています。この船は、当時のヨーロッパの船をも凌ぐ速度で航行できたとされ、「空飛ぶ」という形容がつくほどの速さを誇りました。

 

彼らはこの船を使い、グアムから周辺の島々を自由に行き来していました。特筆すべきは、コンパスも海図も持たない中で、確実に目的地にたどり着けたという事実です。どのようにしてそれが可能だったのでしょうか。

星を読む - 天体航法の秘密

チャモロの航海術の核心は、天体観測にありました。彼らは星々の動きを詳細に理解し、それを航海の道標としていたのです。現代に残る証言によると、特定の星の配置によって、グアムからロタ島、サイパン島といった周辺の島々への航路を正確に把握していたとされています。

 

興味深いことに、この知識は文字ではなく、身体に刻む形で伝承されてきました。現代のチャモロの末裔の中には、体に施された伝統的なタトゥーの中に、航海に必要な星座の配置が描かれているケースがあります。これは、文字を持たない文化が編み出した、知識伝承の独創的な方法だったのです。

海を読む技術

チャモロの航海術は天体観測だけに頼っていたわけではありません。彼らは波のパターン、海流の変化、雲の形状など、海洋環境のあらゆる要素を読み取る技術を持っていました。

 

特に注目すべきは「波紋読解」の技術です。島の存在は、その周囲の波の動きに特徴的なパターンを生み出します。熟練した航海者は、波のわずかな変化から、陸地の存在と方向を察知することができたといいます。この技術は、現代の科学でも完全には解明されていない、優れた観察眼に基づくものでした。

気象予測の知恵

チャモロの航海者たちは、高度な気象予測能力も持っていました。雲の形状や色、風の変化、海鳥の行動パターンなどから、数日先の天候を予測することができたとされています。これは、安全な航海には不可欠な能力でした。

 

特に、台風の予測には長けていたといいます。太平洋上で発生する強大な熱帯低気圧は、航海の大きな脅威でした。彼らは、自然現象の微細な変化を読み取ることで、台風の接近を事前に察知し、安全な避難行動をとることができました。

知識伝承の方法

文字を持たなかったチャモロの人々は、どのようにしてこれらの複雑な知識を後世に伝えていたのでしょうか。

タトゥーによる記録

前述したように、航海に関する重要な情報は、タトゥーという形で身体に刻まれました。これは単なる装飾ではなく、生きた航海マニュアルとしての役割を果たしていました。体の特定の部位に特定の情報が配置され、それを「読む」ことで必要な知識を引き出すことができたのです。

口承と実地訓練

航海の技術は、実際の航海を通じて若い世代に伝えられました。熟練の航海者が弟子を伴い、実地での訓練を重ねる中で、知識と技術が継承されていったのです。これは単なる技術の伝授ではなく、自然を読み解く感性の育成でもありました。

失われた技術の現代的価値

チャモロの航海術の多くは、残念ながら現代には失われています。しかし、彼らが培った自然観察の手法や、環境との調和の取り方には、現代社会にも通じる重要な示唆が含まれています。

 

特に注目すべきは、彼らの持っていた総合的な環境理解の方法です。現代の航海技術は精密な機器に依存していますが、チャモロの人々は、自然のあらゆる要素を統合的に理解し、それを航海に活用していました。この視点は、持続可能な海洋利用を考える上で、重要な示唆を与えてくれます。

現代に残る航海術

チャモロの航海術は、完全に失われたわけではありません。現代のグアムでも、一部の家族や集団の中で、断片的にせよ古来の知識が受け継がれています。特に注目すべきは、タトゥーに込められた航海術の情報です。

 

これらのタトゥーには、グアムからロタ島への航路を示す星座の配置や、安全な航行のための重要なランドマークが描かれています。しかし、その詳細な解読方法は、限られた人々にしか伝わっていません。

未来への継承

現在、グアムでは失われた航海術の再評価と保存の動きが始まっています。特に若い世代の間で、祖先の知恵を現代に活かそうとする試みが広がっています。

具体的には、以下のような取り組みが行われています。

  • 伝統的な航海術の記録と文書化
  • 現存するタトゥーパターンの研究と解析
  • 若い世代への伝統的な航海知識の教育
  • 現代の航海技術との統合

まとめ

チャモロの航海術は、人類の知的遺産の中でも特筆すべき成果の一つです。文字を持たない文化が、高度な知識体系を構築し、それを伝承していった事実は、人類の知的可能性の広がりを示しています。

 

その多くが失われてしまった今、残された断片から可能な限り多くを学び、記録し、継承していくことが、私たちの責務といえるでしょう。チャモロの航海術は、過去の遺物ではなく、未来に向けた貴重な知恵の源泉として、今なお私たちに多くの示唆を与えてくれています。

プロフィール写真(小川 遼)
執筆者

小川 遼

GLAMのトラベルライター。趣味は国内・海外旅行で、時には仕事をしながら旅行することも。国内・海外を問わず多くの旅先を訪れており、豊富な旅行経験をもつ。特にグアムには何度も渡航経験があり、現地のイベントやホテルなどを取材。グアムの魅力を細部まで知り尽くしている。現地での豊富な体験や取材を基に、旅行者に役立つグアムの魅力をお届けします。写真は、2024年にグアムのランニングイベント「ココロードレース2024」に参加した時のものです。

https://www.glam.jp/authors/ryo_ogawa/

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