日本から約3時間半で行けるグアムは、日本人観光客が多く訪れるアイランドリゾートです。自然が豊かなグアムの小さな島の中には多数の動物が生息していますが、とりわけ注目を集めている動物がいます。それが「ココバード」です。ココバードは絶滅危惧種の鳥で、グアム島内やアメリカ本土でも懸命な保護活動が行われています。
グアムを深く理解するうえで、ココバードがどういった鳥なのか、ぜひ理解しておきたいもの。今回、何度も渡航していてグアムに詳しい筆者が、グアムのココバードについて詳しく紹介します。
目次
ココバードはグアム固有の鳥で、マスコットにもなっている
グアムに旅行すると、人によっては「ココバード」という鳥の名前を見聞きするかもしれません。ココバード(Ko'ko' Bird)とはグアム固有種の鳥です。クイナの仲間となる鳥で、正式には「グアムクイナ(Guam Rail)」と呼ばれます。
ココバードは、その祖先が数千年前にグアムに飛来してきたと考えられています。体長が約28cm、体重が約200~350グラムの小型の鳥で、可愛らしい顔に細長いくちばしをもち、胸からお腹にかけて小さな縞々があるのが特徴です。見た目が非常に愛らしく、グアムでも深く愛されています。
実際、グアム政府観光局のマスコットがココバードとなっており、グアムの象徴の鳥ともなっています。
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▲ココバードはグアム政府観光局のマスコット
そんなグアムでも愛されるココバードですが、実は彼らは飛ぶことができません(飛んでも、1~3メートル程度です)。翼や筋肉が飛ぶために発達しておらず、常に地上を歩いて移動しています。飛べない鳥ではありますが、その細い体によって走るのは速く、特に草が生い茂る中を走るのに最適です。
ココバードは外来種のヘビによって絶滅の危機に瀕する
かつて、ココバードはグアムに多く生息していました。ココバードは非常に縄張り意識が強く、1年中地面に巣を作って、ヘビやネズミなど天敵がいない環境の中で育ってきました。人目につかない道路や草原の端で、餌を食べたり、水浴びしたりする姿が見られたようです。
1960年代には約7万羽いたとされ、あまりに多かったため、食用として狩猟されるほどでした。かつてのグアムにはワシやタカなどの猛禽類やヘビもほとんど生息しておらず、ココバードの天敵がいなかったため、飛ぶ必要性が低くなり飛翔能力を失ったのではないか、とも言われています。
しかし現在、ココバードは絶滅危惧種に指定されています。第二次世界大戦後の終結後、外来種のヘビが島内に入ってきたことが、絶滅へ追いやった原因です。そのヘビの名前は「ブラウンツリースネーク(別名、ミナミオオガシラ)」。国立研究開発法人 国立環境研究所によると、ブラウンツリースネーク(ミナミオオガシラ)は夜行性で捕食性が強く、鳥類など多くの小動物を捕食するヘビです。
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※Brown tree snake, USDA/APHIS, Public Domain, https://www.fws.gov/media/brown-tree-snake
1940~1950年代に、ブラウンツリースネークは物資に紛れ込んでグアムに侵入しました。第二次世界大戦後、日本領からアメリカ領となったグアムでは、アメリカ本土から多くの資材が輸送船でグアムに運び込まれ、その中でブラウンツリースネークが紛れ込んでしまいます。グアムに侵入後、ココバードを捕食。飛べず、また天敵がいない環境で育ってきたココバードは防御手段を持ち合わせておらず、ブラウンツリースネークに簡単に捕食されてしまいます。
結果、ココバードは駆逐され、絶滅の危機に瀕するほど数を減らしてしまいました。急速に数を減らしてグアムで見られなくなったため、国際自然保護連合(IUCN)によってココバードは「野生絶滅」に分類されました。
また、ブラウンツリースネークはココバードのみならず、グアム固有種を含む多数の鳥を捕食し、絶滅にまで追い込んでいます。例えば、日本では「カワセミ」と呼ばれるミクロネシアン・キングフィッシャー(グアムカワセミ)もブラウンツリースネークによって駆逐され、絶滅危惧種に指定されています。なお、ミクロネシアン・キングフィッシャーは、リゾートホテルのPICグアムのマスコットキャラクター「シッキー」と「サンディ」のモチーフとなっている鳥です。
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▲PICグアムのシッキーとサンディはミクロネシアン・キングフィッシャーがモチーフ
多くの方のたゆまぬ努力によって「野生絶滅」から「絶滅危惧種」へ引き上げられる
国際自然保護連合によって絶滅したと考えられていたココバードですが、2020年になると「野生絶滅」から「絶滅危惧種」に引き上げられました。つまり、ココバードの生息数が戻る可能性があることを示しているのです。野生絶滅から絶滅危惧種への引き上げは、極めて珍しいことです。絶滅危惧種へと引き上げられたのは、多くの方の並々ならぬ保護活動が関係しています。
様々な団体や個人の活動によって、グアムではロタ島やココス島で生息し、アメリカ本土でも保護活動が行われています。
特にグアム南西部にあるココス島では、米国農務省主導のもと「自然放鳥計画」が進められ、ヘビのいないこの島がココバードの保護地に指定されました。ココス島はメリッソの沖合い約4kmのところにある全長約1.4kmの小さな島で、アイランドリゾートとして観光客に人気です(2024年12月時点、ココス島は当面の間休業していて観光客は入れません)。
グアム島とは独立した島なので、自然にヘビなどが入ってくる心配もありません。ココス島はココヤシやパパイヤなど自生の熱帯植物が豊富で、数多くの野鳥なども生息する南国のジャングル。保護下でココバードは飼育され、その生息数を増やすべく尽力されています。
また、2024年12月現在で臨時休業しているグアム動物園でもココバードが飼育され、目の前で観察することができました。グアム動物園がすぐに再開され、ココバードが目の前で見られることを祈っています。
参考:ココスアイランドリゾート「ココバードを見てみよう(その1) 絶滅に瀕した貴重なグアムの鳥」
ココバードの保護活動の一環でランニングイベント「グアムココロードレース」が毎年開催されている
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▲2024年に開催されたグアムココロードレース
ココバードを絶滅の危機から救うため、グアム政府観光局も尽力しています。その活動の一環として、2006年から「ココロードレース」というランニングイベントが開催されています。コロナ禍で一時期中止になったものの、2023年から再開、2024年にも開催されました。
ココバードを知ってもらい、保護活動に貢献するため、ココバードに関係して「ココロードレース」という名称になっています。2024年に開催されたココロードレース2024では、大人向けの「グアム・ココ・ロードレース」と、子ども向けの「グアム・ココ・キッズファンラン」の2種類で開催。前者のグアム・ココ・ロードレースではハーフマラソンと10kmロードレース、後者のグアム・ココ・キッズファンランでは年齢に応じた0.6~3.3kmの種目で実施されました。
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▲ハーフマラソン
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▲子ども向けのランニングイベント
実際に日本人の参加者も多く、筆者も実際にハーフマラソンで参加しましたが、グアムの島の雄大さを感じながら走るのはとても気持ちよかったですよ!2025年には 4月 12日(土)~13日(日)で開催されることが決定したので、グアム政府観光局のXなどをチェックしてみてください。
KOKO ROAD RACE 2024にインフルエンサーのさーたんさん、ミサトさん、タレントの渡辺裕太さんにご参加いただきました!🥳
— グアム政府観光局(公式) (@visitguam_jp) April 14, 2024
今年も大盛り上がりで終了いたしました!😆
海を眺めながらのマラソンは最高です!是非来年のココロードレースにご参加ください!🇬🇺#hereweguam#グアム#kokoroadrace pic.twitter.com/lZ3GDATv28
ココバード保護活動の一環として開催されている「ココロードレース」では、ココバードのことを知ってもらうべく、会場内で啓蒙活動が行われていました。
実際に、カゴに入ったココバードを間近で見ることができ、子どもを中心に、参加者の注目を集めていました。また、スタッフの方からはココバードの現状などを説明してもらったり、シャツを販売して売上の一部をココバード保護の費用に充てたりと、絶滅の危機から救うべく熱心に活動されている様子をうかがうことができます。
筆者も実際に走ったココロードレース2024については以下の記事でも詳しく解説しているので、気になる方はチェックしてみてください!
参考:グアムのマラソン「ココロードレース2024」で走ってきました!イベントの概要やレースの感想を紹介♪
ココバードが絶滅危惧種から救われることを願って
グアムを象徴するココバードは、かつて7万羽もの個体数を誇った固有種でしたが、外来種のブラウンツリースネークにより一時は野生絶滅にまで追い込まれました。しかし、米国農務省やグアム政府観光局、そして多くの人々の懸命な保護活動により、2020年には「絶滅危惧種」へと状況が改善。
現在もココス島での自然放鳥計画や、ココロードレースなどの啓発活動を通じて、その保護の輪は着実に広がっています。
自然豊かなグアムの生態系を守り、その象徴であるココバードを次世代に残していく。それは単に一種の鳥を守るだけでなく、人間と自然との共生、そして外来種がもたらす環境破壊への警鐘としても重要な意味を持っています。グアムを訪れる際は、ぜひこの貴重な鳥の存在とその保護活動に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。