太平洋に浮かぶ小さな島、グアム。この米国領の島には、一見すると違和感を覚えるような動物が生息しています。それが水牛(カラバオ)です。なぜ、この東南アジアを代表する大型家畜が、はるか太平洋の島に存在するのでしょうか。その謎を解き明かすためには、グアムの歴史、文化、そして生態系について深く理解する必要があります。
そもそも水牛とは何か
日本では馴染みのない水牛。水牛とは、ウシ科の中で最大の動物です。牛と水牛は同じウシ科の動物ですが、牛はウシ属であり、水牛はアジアスイギョウ属です。
野生の水牛は、立ち上がると肩の高さが1.5メートル~2メートルにもなる、大きなサイズが特徴的な牛です。「水牛」という名前の通り水を好んでおり、動物園などでは夏になると、気持ちよく水の中で泳ぐ姿も見られます。
日本で水牛を見られるのは沖縄県のみ
タイやインドなどのアジア地域やブラジルでは、水牛が飼育されています。運搬手段のほか、肉や乳は食用として活用されており、大切な動物です。
一方、日本では水牛の利用はほとんどありません。日本で水牛を見られるのは、水牛車観光ができる沖縄県ぐらいでしょう(下記画像は、沖縄の由布島にいる水牛です)。
例えば、沖縄の竹富島では、水牛が人を乗せてけん引する「水牛車」を楽しめます。のんびりと水牛に引かれて、心地よい風を浴びながら沖縄の地でゆったりとした時間を楽しむのもよいでしょう。
しかし、先述の通り水牛を見られるのが沖縄ぐらいで、それ以外で見ることはほとんど不可能です。水牛が日本で一般的ではない理由は、気候や、すでに水牛ではない牛の飼育が一般的であったことが関係していると言われています。
一般的に水牛は、アジアの熱帯雨林や亜熱帯雨林で過ごす、温暖な気候を好む動物です。しかし、日本は冬になると寒冷地になる地域が多く、寒さに弱い水牛にとっては過酷な環境です。
また、水牛は肉や乳を手に入れるために飼育されることが多いですが、日本では昔から和牛やホルスタインなどの牛がその役割を担っており、水牛が入り込む余地はありませんでした。農業などの労働力として見ても、日本はあらゆる産業で機械化が進んでおり、沖縄県の観光用を除き、国内で水牛が活用される場面はほとんどありません。
グアムでは水牛が文化・歴史のシンボルになっている
日本では目にかかる機会が少ない水牛ですが、グアムではあらゆる場所で水牛を見ることができます。グアムでは、水牛のことを「カラバオ」と呼んでいます。ガラバオは、水牛のチャモロ語です。
グアムで代表的な動物でもあり、島内では多く見かけます。今でも、島の南部では水牛をペットとして飼っている世帯もあり、南部をドライブすると、水牛を散歩させるローカルの方と出会うこともあります。
しかし、どうちらかというと、水牛で目にするのは実物ではなくモニュメントです。グアムには、島を象徴する動物として、島の至る場所に水牛のモニュメントがあります。
たとえば、グアムの玄関口・グアム国際空港では、水牛のモニュメントがあります(下記画像)。かわいらしくペイントされた水牛が、観光客の目を惹きますね。
また、グアムで人気のアウトレット、グアム・プレミア・アウトレットでも、空港のものとはまた違ったペイントがされた水牛のモニュメントを見かけました。ほかにも、至る場所で水牛のモニュメントがあり、ガラバオがグアムにとって重要な動物だとわかります。ぜひフォトスポットとして、写真に収めてみてください。
グアムでは、水牛に乗れるアトラクション「ガラバオライド」も人気です。毎週水曜日夜に開催されるチャモロビレッジナイトマーケットや、タロフォフォ川の大自然を探検できるツアー「ジャングルリバークルーズ」でも、水牛との触れ合いを楽しめます。
蒸し暑い日には、家畜のガラバオが小川でくつろぐ姿も見られます。日本では滅多に見られない水牛は、グアムでは度々見かけることができ、現地に行けば水牛が文化・歴史のシンボルであることを実感できるでしょう。
なお、グアムで野生の水牛を狩猟したり殺したりすたりすると、法律で罰せられます(非営利目的の捕獲であれば、許可証を発行してもらえれば可能)。しかし、実態としてグアム島内には(海軍基地内を除いて)野生の水牛がほとんどおらず、この法律はもはや必要ないとまで言われています。
なぜグアムに水牛がいるのか
先述の通り、水牛はアジアで古くから家畜として親しまれていた動物です。中世になると、水牛は中国やインド、中東、ヨーロッパなど、広く分布するようになりました。
グアムにおいては、スペイン統治時代(1668年~1898年)に、農業用としてフィリピンから水牛が持ち込まれたと言われています。水牛は農業用としての役割を果たし、二輪車や農業用具を引くその姿は、今もチャモロ人の集団生活を鮮明にイメージさせるものの1つです。
1700年代~1800年代初頭まで、陸上輸送を担っていたのはまさに水牛なのです。今は車がグアムの主な移動手段となっており、今日けん引動物として水牛が用いられることはほとんどありませんが、歴史の名残りから、今でも特に南部では地元の方にペットとして愛され、大切に世話されています。
また、海外からの観光客が多いグアムでは、観光用に家畜として大事に育てられている水牛もいます。
まとめ
グアムの水牛は、スペイン統治時代から続く歴史的遺産であり、現代においても観光や文化的シンボルとして重要な役割を果たしています。その存在は、人間の活動が島の生態系に与える影響を考える上で重要な事例となっています。
水牛の存在は、グアムの歴史、文化、そして生態系の複雑な相互関係を示す象徴的な例といえます。今後も、観光資源としての活用と環境保全の両立を図りながら、この特異な存在を守り続けていく必要があるでしょう。