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2025.04.11(Fri)

グアムの野鳥を食い尽くしたミナミオオガシラ 一種の外来生物が島の生態系と人々の暮らしを変えてしまった経緯とは

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※Brown tree snake, USDA/APHIS, Public Domain, https://www.fws.gov/media/brown-tree-snake

 

ミナミオオガシラ(学名:Boiga irregularis)は、体長1.4~2メートルほどの、ナミヘビ科のヘビです。オーストラリアやソロモン諸島、インドネシアなどに生息しています。国内においては沖縄で発見記録がありますが、国内では未定着の生物です。

 

一方、日本から約3時間半で行ける南国リゾートのグアムには、ミナミオオガシラが第二次世界大戦後に偶然持ち込まれたことで、島の生態系が壊滅的な打撃を受け、人々の暮らしにも大きな影響を与えています。

 

ここでは、そんなグアムでも脅威の存在となっているミナミオオガシラについて見て行きましょう。

 

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第二次世界大戦の直後にミナミオオガシラがグアムに侵入してしまう

 

グアムといえば青く透き通った海を思い浮かべる方が多いと思いますが、広大なジャングルが広がる自然豊かな島でもあります。しかし、グアムの森は少しいびつで、野鳥の声が聞こえてきます。その原因こそ、まさにこのミナミオオガシラです。

 

時は1941年にまで遡ります。同年12月、日本軍による真珠湾攻撃により、太平洋戦争が勃発。真珠湾を攻撃した直後、当時アメリカの統治下にあったグアムを攻撃し、日本軍が占領します。

 

その後、アメリカ軍は次第に反撃を強め、ガダルカナル島などに上陸、そして1944年7月にはグアムにも攻撃を仕掛けます。グアムでは3週間の激戦が繰り広げられ、アメリカ軍が勝利し、再びアメリカの統治下に入ることになりました。

 

翌年1945年に第二次世界大戦の終戦し、その後グアムはアメリカの重要な拠点として位置付られました。アメリカ本土から重要な軍事物資が海上輸送によってグアムに持ち込まれましたが、その中にミナミオオガシラが紛れ込んでいたことが、グアムの悲劇の始まりです。

ミナミオオガシラはアドミラルティ諸島から持ち込まれた

※Gordon Rodda, U.S. Geological Survey, Bugwood.org

 

もともと、ミナミオオガシラはオーストラリアやパプアニューギニア、ソロモン諸島原産のヘビです。グアムの軍事物資に紛れ込んでグアムに侵入したのは、1945年~1953年以前と推測されています。

 

グアムに生息するミナミオオガシラの色彩や鱗の模様を判断するに、グアムから南にある、パプアニューギニア北部の南太平洋に浮かぶ諸島・アドミラルティ諸島から持ち込まれたと考えられています。

 

第二次世界大戦時、アドミラルティ諸島はアメリカの軍事拠点であり、ここからグアムに軍事の物資が運び込まれていました。その際に、ミナミオオガシラが紛れ込んでしまったのでしょう。

 

 

ミナミオオガシラは長期間餌がなくても生きていられるほど屈強な生物で、船や飛行機の中でも生き延びることができます。こうして、グアムに容易に侵入したミナミオオガシラが、グアムの生態系の破壊を始めてしまうのです。

なぜミナミオオガシラは容易に生態系に壊滅的な打撃を与えたのか?

ミナミオオガシラは肉食性のヘビで、ネズミやトガリネズミ、トカゲ、そして鳥類などの小動物を好んで食べます。

 

瞬く間にグアム原産の鳥は駆逐され、1945年以降にミナミオオガシラが侵入して以降、1980年代までに12種類中10種類のグアム原産の鳥を絶滅させてしまいます。

 

現在、グアムの森林に生息している鳥は「マリアナアナツバメ」と「ミクロネシアムクドリ」の2種類のみです。この在来鳥も、依然としてミナミオオガシラの捕食による危機に瀕している状況です。ほかにも、森林に生息するトカゲなどの脊椎動物を絶滅に追いやっています。

 

なぜ、ミナミオオガシラはグアムの生態系を、この短期間で簡単に破壊できたのでしょうか?それは、野鳥が防御機能を持っていなかったためです。

 

当時のグアムには野鳥を捕食するような存在がいなかったため、防御能力を高める必要がありませんでした。敵がいないグアムは、ミナミオオガシラにとってまさに絶好の場所であったのです。

 

また、グアムはほかの諸島と比べて、ヘビを捕食する存在であるクモの数が少ないことも、野鳥の絶滅を加速させた原因の1つとも考えられています。

 

グアムの固有種である「ココバード」も、外敵がいない環境で育った野鳥の1種です。グアムに旅行した方の中には、一度はその名前を聞いたことがある方もいるのではないでしょうか?

 

ココバード(正式名称:グアムクイナ)は、体長が約28cm、体重が約200~350グラムの小型の鳥です。可愛らしい顔に細いクチバシをもつのが特徴で、グアム政府観光局のマスコットにもなっています。

 

※画像出典:Smithsonian's National Zoo and Conservation Biology Institute

▲ココバードはグアムのマスコットにもなっている

 

1960年代には約7万羽いたとされ、あまりにも数が多くて食用にもされるほどでした。しかし、突如侵入したミナミオオガシラによって捕食され続け、20年後の1981年には21~24羽しか発見できなかったようです。

 

保護団体はこの残り少ないココバードを管理下に置き「野生絶滅」に指定。野生での生育が確認されない状況になりました。

 

しかし、ミナミオオガシラによって絶滅の危機にまで瀕しましたものの、2020年には「野生絶滅」から「絶滅危惧種(絶滅の危機に瀕している生物)」にまで引き上げられました。

 

野生動物から絶滅危惧種への引き上げは非常に珍しいことです。まだまだ安心できる状況ではないものの、多くの人のたゆまぬ努力によって今も懸命に絶滅危惧種からの脱却が取り組まれています。

 

参考:グアムのココバードを知っていますか?絶滅から救うべく、懸命に守り抜く固有種に迫る

生態系だけでなく人間社会にも影響を及ぼしている

 

実は、ミナミオオガシラの問題は野鳥の減少だけにとどまりません。ミナミオオガシラの増加は人間社会にまで影響を及ぼしており、現在も経済的被害をもたらしている状況です。

 

ミナミオオガシラはグアムの電線を這うことで、電線を損傷させ、また変圧器などに侵入することで頻繁に停電を起こし、数百万ドル規模の経済的損失を引き起こしています。

 

ミナミオオガシラは木の上に生息することが多いですが、地上でもよく見られます。野鳥が減ってしまったことで、ミナミオオガシラは家の庭に侵入し、家禽(かきん)や卵、ペットの鳥まで捕食してしまっているのです。

 

また、森林や農作物にも影響を与えています。

 

野鳥は種子を散布する役割を果たしており、果実を食べて種を吐き出したり、フンとして種が排泄されることによって新たに植物が育ち、森林が広がっていきます。しかし、グアムでは種子を運ぶ野鳥が少なく、森林の分布や回復がかなり遅いペースになっています。

 

また、野鳥は害虫を捕食するので、害虫駆除の役割も果たしています。しかし、野鳥が少ないグアムでは害虫の数が増え、島内の農作物への被害も引き起こしているのです。

 

ただ、実際にグアム住民の方が、ミナミオオガシラに遭遇する機会は多くありません。仮に遭遇したとしても、ミナミオオガシラはこちらから刺激しない限りは、積極的に人を襲うことはめったにありません。グアムでは、何年もミナミオオガシラを見たことがないという方もいます。

 

とはいえ、ミナミオオガシラの牙には毒があります。ミナミオオガシラは弱毒で、ほとんど場合は衣服を貫通することはないのですが、噛まれてしまうと重体になるケースもあります。

 

特に、小さな子どもにとっては深刻な問題です。ミナミオオガシラにかまれたり、締め付けられたりすることで生命に危険を及ぼすことがあり、特に小さな子どもがいる家庭では、住宅へ侵入しないようにするための対策が必要です。

 

ダクトなどから自宅に侵入することがあるので、ドアや網戸は閉めておくのはもちろん、ダクトに侵入防止のキャップをはめたり、住処を作らないように近くに植物を取り除くなどの対策が推奨されています。

ミナミオオガシラの駆除に、日本でも馴染みのある○○が用いられている

生態系を破壊し、経済的被害を与えているミナミオオガシラに対し、米国農務省は駆除の対策を行っています。現在、島内には約200万匹いるとされていますが、そのミナミオオガシラを比較的簡単に駆除できる手段を見つけましした。それが「アセトアミノフェン」です。

 

アセトアミノフェンは解熱鎮痛剤の代表的な成分で、日本では「カロナール」の商品名としても販売されています。1870年代に開発されて以降、100年以上にわたって、世界中で広く使用されています。日本でも、発熱や頭痛を抑える薬として服用されている成分もあります。

 

 

このアセトアミノフェンは人体にとっては解熱や鎮痛の効果がある成分ですが、ミナミオオガシラが摂取した場合、わずが80mgのアセトアミノフェン(通常、成人には1回300〜1000mgを経口投与)を摂取することで死亡することがわかりました。

 

アセトアミノフェンは、ミナミオオガシラの血液中のヘモグロビン(酸素を運ぶ分子)をメトヘモグロビンに変換します。メトヘモグロビンは酸素を運ぶ能力を持たないため、酸素が体内に運ばれなくなるため、重度の低酸素症が発生。呼吸不全が起きて、ミナミオオガシラは死亡するのです。

 

爬虫類は、哺乳類と比べてアセトアミノフェンへの代謝するための酵素が不足しており、少量でも致命的な量となります。

 

人間やその他動物へ害を与えず、またミナミオオガシラの生息地は通常人間が容易に足を踏み込まないジャングルであったことから、2010年から、ネズミの死体にアセトアミノフェンの詰め込み、ジャングルの上空から空中投下する実験が実施されています。

 

ミナミオオガシラは容易にこのネズミの死骸を食べ、わずか24時間以内でミナミオオガシラが死亡したことも確認されています。

 

ただ、200万匹もいるとされるミナミオオガシラに対し、根本的な解決になっているかは不明です。今後も、アセトアミノフェンを用いたミナミオオガシラの駆除は続いていくものとみられています。

まとめ:ミナミオオガシラの駆除を目指すグアム

グアムでは、ミナミオオガシラという一種のヘビの侵入が、島固有の生態系に壊滅的な打撃を与えました。野鳥の絶滅や森林の再生阻害、電力インフラへの損害など、その影響は多岐にわたります。


現在もアセトアミノフェンを用いた駆除作戦が模索されていますが、推定200万匹に達する個体数を考えると、完全排除への道のりは険しいと言わざるを得ません。しかし、ココバードが「野生絶滅」から「絶滅危惧種」へと状況が改善したように、地道な保全活動には希望の光も見えています。

 

ミナミオオガシラは、グアムにとって避けられない問題です。グアムが好きな方は、この機会に、ぜひミナミオオガシラについての理解も深めていただけるとうれしく思います。

 

グアム旅行者必見
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※参考文献

プロフィール写真(小川 遼)
執筆者

小川 遼

GLAMのトラベルライター。趣味は国内・海外旅行で、時には仕事をしながら旅行することも。国内・海外を問わず多くの旅先を訪れており、豊富な旅行経験をもつ。特にグアムには何度も渡航経験があり、現地のイベントやホテルなどを取材。グアムの魅力を細部まで知り尽くしている。現地での豊富な体験や取材を基に、旅行者に役立つグアムの魅力をお届けします。写真は、2024年にグアムのランニングイベント「ココロードレース2024」に参加した時のものです。

https://www.glam.jp/authors/ryo_ogawa/

GLAMのトラベルライター。趣味は国内・海外旅行で、時には仕事をしながら旅行することも。国内・海外を問わず多くの旅先を訪れており、豊富な旅行経験をもつ。特にグアムには何度も渡航経験があり、現地のイベントやホテルなどを取材。グアムの魅力を細部まで知り尽くしている。現地での豊富な体験や取材を基に、旅行者に役立つグアムの魅力をお届けします。写真は、2024年にグアムのランニングイベント「ココロードレース2024」に参加した時のものです。

https://www.glam.jp/authors/ryo_ogawa/
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