これほどまでに一つの色で統一された街並みを見たことは無い。その街は、濃淡様々な青がパズルのように組み合わさった姿でモロッコ北部の山間に身体を横たえていた。近年旅好きの間で話題になりつつある青の街「シェフシャウエン」。この街を訪れる目的はただ一つ、「青に浸る」ことだ。
フェズから片道4時間かけて着いたバス停には、山間をぬって清々しい風が吹く。心臓が止まりそうなほど急な坂道を上がり旧市街への門を潜ると、そこにはあの青の世界が広がっている。
シャウエンで青に浸るポイントは二つある。
まずは路地裏を歩くこと。青の街と云えども実際は広場や道、建物も上半分が青ではなかったりする。メイン通りは人も多い。そこで、一本道を外れて街の奥深くへ入ってみよう。賑やかな表通りから離れた細い路地にこそ、青の街の神髄がある。
そして、行き止まりを探すこと。街の決まりで、先が行き止まりになっている路地は地面も青に塗ることになっている。人気を避けて袋小路に身を置けば、そこには紛れもなくあなただけの青の世界がある。
ところで、この深い青にずっと囲まれていると何となくどこかに引き込まれていってしまいそうな危うさを感じることがある。
実は、シャウエンという街は麻薬の密売などドラッグの街としての怪しい一面も持っている。それが余計にミステリアスさを醸し出していて、同時にまたこの街の不思議な魅力の一つなのかもしれない。
日が暮れると同時に、山にかかった霧が小雨を降らせ深い青を濃紺に濡らしてゆく。このままここに残っていると本当に帰れなくなりそうな気がして、私は足早に街を立ち去った。