ヨーロッパ旅行のツアーに参加すると必ず観光に含まれているのが教会見学です。そこで大抵、歴史の説明などと一緒にガイドからさらりと説明される建築様式。バロックだの、ゴシックだの、ルネサンスだの、とにかく様々な様式の名前が出てきて、そのうち何が何だか分からなくなってしまう経験をしたことがある方は少なくないはずです。「この教会はゴシック様式で建てられていますが、内部はバロック様式です。」と説明されたところで、一体何がゴシックでどういうものがバロックなのかイマイチよく分からないというのが本音です。
しかし、どれも同じようにみえる建築様式には実は明確な特徴があるのです。それぞれの大まかな特徴を掴んでおきさえすれば、驚くほど簡単に建築様式を見分けることができ、ガイドの説明にも頷くことが出来るのです。そこで、教会における代表的な建築様式の誰が見ても分かる特徴を、二回に分け時代の流れに沿ってご紹介してみたいと思います。
1)ロマネスク様式 11世紀~12世紀 西ヨーロッパ全域
サン・ジュリアン聖堂 フランス
ル・トロネ修道院 フランス
古代以降、西ヨーロッパで最初に流行った建築様式がロマネスクです。まずは直観的なイメージで捉えてみましょう。ロマネスクのイメージは「素朴」です。全体的にゴテゴテした装飾はなく素朴で簡素、日本の古寺に似た情緒があり、日本人の感性には最も合うと言われています。
次に、ロマネスクの視覚的な特徴を見ていきましょう。まずは、装飾効果を狙ったアーチの列です。この場合アーチに実用的な意味はなく、壁などに装飾として使われていることがほとんどです。そして、アーチは円形をしています。ロマネスクは石造建築が始まって初期の段階に流行ったので技術がさほど発達していません。したがって、建物を支える壁はどっしりと分厚く重く、建物自体の高さも低く、窓は小さくて少ししかありません。結果的に、内部は仄暗くなっています。
アーチ、壁、窓、内部の仄暗さに注目すれば、ロマネスクであることはほぼ間違いなく分かるでしょう。
2)ゴシック様式 12世紀 フランス
ケルン大聖堂 ドイツ
聖ヴィート教会 チェコ
フランスで生まれ、広まっていったのがゴシックです。イメージは「荘厳」。現存する教会の中では、ゴシック建築が最も多く観光でもよく出てきます。そして、最も判別しやすいのがゴシックかもしれません。
ゴシックの特徴は、全てが「高さにこだわる」という点に集約されます。ロマネスクをどんどんと天に向かって背伸びさせながら発展していったと考えれば分かりやすいでしょう。まずは、ロマネスクの円形アーチが縦に伸びて尖頭アーチになります。そして、天を突き刺すかのような尖った尖塔が付きます。高さも極限まで伸ばすため建物を支えるバットレスという無数の支え柱が外側に付き、そのお陰で複雑に入り組んだ外観になっています。内部に入ると一目瞭然、天井も極限まで高くなり,さらに床から天井までを華奢な付け柱でひとつに繋げ、天井で交差させることで視線を縦方向に注目させる効果を持たせています。壁は薄く、大判で縦長の窓が沢山ついています。ロマネスクとの最大の違いは窓にステンドグラスを多用していることです。これにより内部に神秘的な光が差し込み、荘厳な雰囲気を演出することができます。
ゴシックは問答無用にその高さに圧倒されることから、非常に分かりやすい建築様式と言えるでしょう。だだし、これはすっきりとした合理的な建築を好むイタリア人からは嫌われ、「蛮族ゴート人のやりくちのようだ」と批判され「ゴシック」という呼び名が付いたと言われています。
以上、今回は初期の二つの建築様式をご紹介しました。次回は、ルネサンス、バロック、クラシックの特徴を見ていきたいと思います。