旅の重要な要素のひとつがホテルです。けれど、一口にホテルといっても、シティホテルからリゾートヴィラまで、旅の目的によって様々なスタイルがあります。今回は、ただのホテルには飽きてしまったという方にオススメしたい、思わず泊まってみたくなる素敵で面白いホテルをご紹介しましょう。
① アリア・ホテル / チェコ プラハ
チェコ共和国の華麗なる首都プラハ。街をゆったりと流れるモルダウ川、そして川の向こうにそびえるプラハ城と聖ヴィート教会。うっとりするような美しい古都には千年の歴史が流れています。そしてこの街はいわずと知れた音楽の都。スメタナやドヴォルジャークなど名立たる作曲家を輩出し、毎年春には「プラハの春音楽祭」が華々しく開かれます。
そんな音楽の街プラハにぴったりのホテルがこちら。中世の雰囲気を色濃く残したマラーストラナ地区に静かに佇む、アリア・ホテルです。このホテルは音楽をテーマとしたホテルで、イタリアの建築家によって現代に甦った歴史ある邸宅。
美しいヴルトボフスカー庭園へのプライベートエントランスをもつこの秘められたホテルは、プラハ城や聖ミクラーシュ教会へも徒歩圏内。まるで中世の街そのものを独り占めしているかのような感覚になれる穴場ホテルなのです。
静かな一画にあるエントランスには音符のモザイクが。ここから音楽の世界に誘われるのです。4つのフロアはそれぞれ音楽のジャンル、そして音楽家の名前がついており、異なった内装の部屋には全室オーディオ設備が整っています。完全防音の部屋では、約8万曲のレパートリーから好きな曲を選び、大音量で聴くなんてことも。
館内上映室では音楽にまつわるDVDやCDが見放題。そしてコンシェルジュではプラハで行われるコンサートや劇場の予約をお任せでき、生きた音楽体験をすることができます。そしてもう一つの醍醐味は、ホテル内にあるミシュランの星付きレストラン、コーダでのお食事。夏にはテラスで爽やかな風を感じながら、チェコ料理に舌鼓を打つなんて最高のひとときです。赤茶屋根の広がる旧市街、まるで時代を錯覚してしまうような古い街を眺めつつ音楽とともに歩んできたプラハを五感で感じとってみてください。
② ブルクホテル・トレンデルブルク /ドイツ トレンデルブルク
女性なら一度は憧れるディズニー映画や童話の世界。グリム兄弟の故郷であるドイツ、メルヘン街道の中心に、黒々と広がるラインハルトの森があります。その森の中、ディーメル川を見下ろす位置にあるのが約700年もの歴史をもつ古城。そしてこの古城こそが、グリム童話に描かれ、ディズニー映画にもなった「塔の上のラプンツェル」のモデルとなったお城なのです。お城は、今は古城ホテルとして生まれ変わり、魔法にかけられたラプンツェルの塔に私たちは泊まることができるのです。
ラプンツェルは美しく長い髪をもつお姫様。幼いころ魔法使いに誘拐され、階段の無い塔に閉じ込められて毎日を過ごしていました。魔法使いはラプンツェルの長い髪を使って塔を出入りしていたのです。ある日ラプンツェルは塔に自力で忍び込んできた泥棒に、今まで憧れ続けてきた外の世界へ連れて行ってくれるよう頼みます。実はその泥棒が王子様で……、メルヘンと魔法に彩られたラプンツェルの童話の世界。メルヘン街道に点々と連なる可愛らしい街々や城を訪ねながら、トレンデルブルクでこの古城ホテルに泊まるコースはオススメです。
ギシギシ軋む木の内装。当時使われていた甲冑などが並び、ヨーロッパの古い城ならではの雰囲気です。高台のレストランからは眼下に広がるトレンデルブルクの街が見え、塔の中から街の明かりに憧れ続けてきたラプンツェルの気持ちになることができます。
トレッキングコースも用意されているので、街を目指して森を歩いたラプンツェルのように、ラインハルトの黒い森を彷徨ってみるのも面白いかもしれません。
③ スリーシスターズ / エストニア タリン
“まるでお伽話の世界に迷い込んだような“とか“中世にタイムスリップしたかのよう”などといわれるエストニア、タリンの旧市街。世界遺産にも登録されたこの小さな歴史地区には、本当に街まるごと時代を遡ってしまったような不思議な魅力が漂っています。かつて商人や村人が歩いていた石畳の細い路地にはハンドメイドのお菓子を売る商店やアンティークな店先。チェーン店など一軒も無くそれぞれ個性を放つレトロなカフェなどが目白押しで、一歩歩くごとに立ち止まってしまうほど。
そんな旧市街の城門の近くにあるホテルが、スリーシスターズ。三姉妹を思わせるように、三つの可愛らしい建物がくっついて並んでいることからこう呼ばれるようになったのだとか。
このホテルは、14世紀にあった実際の商家を利用しています。なぜ商家なのでしょう。実はタリンの街は中世、ドイツを中心とした北海バルト海沿岸の商業都市が結成したハンザ同盟の一都市でした。ハンザ同盟は北欧経済圏一体を支配し、タリンはロシアとの貿易拠点として大いに繁栄したのです。したがって、タリンの商人は生活が豊かで、商家は常に活気に満ち、夕食には豪華な食事が並ぶ居心地の良いものだったに違いありません。
小さな入口から中へ入ると、ウェルカムドリンクとともに暖炉がお出迎え。梁や柱にいたるまで可能なかぎり当時のものを残したという室内には蝋燭の光に宿る不思議な温かみが感じられ、裕福だった当時の商人たちの生活ぶりが思い浮かびます。
豊富なワインのセレクションで有名なレストランでは、心づくしのエストニア料理を。雨の日には幽霊が雨戸を閉めてまわる、という言い伝えさえもなんだか粋に聞こえてしまいます。
テーマ性のある面白ホテル、いかがだったでしょうか。泊まるホテルで旅の印象は変化します。画一的なアメリカンタイプの大型ホテルも安心できるけれど、できればその土地、国の魅力をたっぷり味わえるような唯一無二のホテルに泊まってみたいもの。ホテル選びに困ったら、こういった切り口で選んでみるというのもひとつです。